日本人と外国語の相性

 私がこれまでに勉強した外国語は、英語、オランダ語、中国語(マンダリン)の3つ。いずれも苦労した、ていうか、し続けているんですけれども、比べて感じたことを書きとめておきます。

昭和49年、12歳の私をクローンして、3人にしたとします。能(脳)力は全く一緒。日本の中でだけ育ってきて、外国人は、モルモン教の宣教師を除けば、テレビでしか見たことがない。英語で会話したことも当然ない。ごく平均的な昭和49年の12歳。
で、ひとりは昭和50年代の英語教育を中学、高校、大学で受ける。つまり今の私。
二人目は代わりにオランダ語教育、三人目は中国語教育を、同じ質で同じ量受ける。三人の私は、それぞれどこまで上達するか。

英語の私が大学卒業の時点で到達したレベルを10だとしましょう。
ならば、オランダ語の私はレベル13、中国語の私はレベル20くらいまで行けるのではないか。

 

なぜオランダ語の方が英語より易しいか。
分離動詞とか、名詞による定冠詞の使い分けとか、英語にない規則はありますが、全体として見れば、文法が英語よりも単純。
発音でも、日本人に聞き分けづらい音が、英語よりも少ない。
さらに、ボキャブラリー、単語の数が、英語よりも少ない。ていうか、英語の単語数が多いんだよね。イングランドを征服したノルマン人が自分達の語彙をキープし、それが後々、既存の英語に上乗せする形で融合したからだとか。

なぜ中国語はさらに易しいか。
漢文にレ点や返り点が必要なことからわかるように、日本語との文法上の共通点はあまりありません。
が、語彙のアドバンテージがでかい。漢字そのものと、たくさんの単語が中国から来ていますから、初見でも意味がわかる単語が多い。読み方も、音読みは中国語由来なので、かなりの精度で見当がつくことがある。「新鮮」の読みが「しんしぇん」で意味が「新鮮」、とか。イントネーション(四声)のためには辞書を引かなくてはなりませんが、文章の大意の見当がつくだけでも気持ち的に楽でしょ?めげにくいっていうか。発音や文法は決して簡単ではありませんが、それは英語も一緒なので。

 

では、12歳の私がオランダ人で、英語、日本語、中国語を同じ期間、同じ熱意で学んだら?教育制度の違いとかは置いといて、同じ質、量の教育だったとします。
英語でレベル30、日本語と中国語はレベル10、くらいじゃないかな。

同じゲルマン系の言語である英語とオランダ語は、文法も語彙も近い。日本人の私がつまづく(つまづいた)現在完了形とか゚仮定法とか、オランダ人の私は難しいとは思わないはず。
語彙も、英語のformidable(ふぉーみだぶぅ)がformidabel(ふぉーみだーべる)とか、英語の会話の中でこんな単語が出てきたら、日本人の私は「えっ、なにそれ?」って思考が止まってしまって、会話の流れを見失ってしまいますが、オランダ人の私は「ああ、すんごいって言いたいんだな」と一瞬で当たりがついてしまう。
語順も、「Although...」で文が始まれば、「ああHoewelね」と瞬間逐語訳ができてしまうので、思考の仕組みを切り替える必要が、ないとは言わないけど、あまりない。

欧米の言語なら3つや4つは実用レベル(仕事で会議やプレゼンが支障なくできて、ちょっとしたジョークを挟んだり理解したりできるレベル)でできるオランダ人は珍しくないですけど、日本語、中国語となると、母国語のアドバンテージが生きない。覚える文字の数が半端いし。中国語の漢字の数、日本語の3つのアルファベットは、相当な難関になるはず。

帰国子女でもないのに英語やオランダ語が堪能な日本人、中国語や日本語が堪能なオランダ人はいますから、上達が個人の能力と努力に依存することは間違いないです。でも、必要なエネルギーが、母国語によって違うこともまた、間違いないと思います。
してみると、中国が大国として世界で存在感を増していくのは、日本人にとって有利な点もあるんじゃないかな。

 

参考文献

The Shortest History of Europe